「広告費を増やしたら売上は伸びた。なのに、月末に通帳を見ると利益が増えていない」——EC支援の現場で、いちばん多いご相談がこれです。
多くの場合、原因は商品でも広告クリエイティブでもありません。見ている数字が"売上ベース"だからです。ROASやACoSは便利な指標ですが、これだけを頼りにすると「売れば売るほど赤字」のSKUに、気づかず広告費を注ぎ続けてしまいます。
この記事では、その構造を「広告後粗利」という1つの考え方で解きほぐします。計算は四則演算だけ。今日から自社の数字に当てはめられます。
ROAS・ACoSは「売上」しか見ていない
まず2つの指標を整理します。
ROAS(広告費用対効果) = 広告経由の売上 ÷ 広告費。たとえば広告費10万円で売上40万円なら ROAS=4.0(400%)。
ACoS(売上に対する広告費比率) = 広告費 ÷ 広告経由の売上。上の例なら ACoS=25%。ROASとACoSは裏表の関係です(ROAS4.0=ACoS25%)。
どちらも「広告がどれだけ"売上"を生んだか」を表します。しかし事業に残るのは売上ではなく利益です。売上40万円のうち、原価・販売手数料・配送・ポイント原資を引いたあとに何が残るか——ROASもACoSも、そこには一切触れていません。
本当に見るべきは「広告後粗利」
広告後粗利とは、1個売れたときに、広告費まで差し引いて手元に残る利益のことです。
- 単品粗利(広告前)= 販売価格 −(原価+販売手数料+FBA/配送+ポイント原資+返品・保管などの実費)
- 広告後粗利 = 単品粗利 −(1個あたりの広告費)
この「広告後粗利」がプラスなら、その広告は利益を生んでいます。マイナスなら、売れるほど損が膨らむ。判断はこれだけでつきます。
同じ「売れている」でも、利益は正反対になる
2つのSKUを比べます。どちらも広告で同じくらい売れていて、ダッシュボード上は"好調"に見えるとします。
以下の数値はすべて説明のための仮の計算例です。実際の手数料率・配送費・ポイント原資は店舗・カテゴリ・プランによって異なります。
SKU A(高粗利):販売価格3,000円/原価−900円/販売手数料(15%)−450円/FBA・配送−500円
→ 単品粗利1,150円(粗利率38.3% = 損益分岐ACoS38.3%)
→ 実ACoS25%・1個あたり広告費750円 → 広告後粗利 +400円
SKU B(低粗利):販売価格1,500円/原価−600円/販売手数料(15%)−225円/FBA・配送−400円
→ 単品粗利275円(粗利率18.3% = 損益分岐ACoS18.3%)
→ 実ACoS30%・1個あたり広告費450円 → 広告後粗利 −175円
SKU Bは「ACoS 30%」。一見そこまで悪くない数字です。ところが粗利率が18.3%しかないので、ACoSが18.3%を超えた時点で、その広告経由の販売は赤字。1個売るごとに175円ずつ損をしています。広告を増やして"売れている"ほど、傷は深くなります。
損益分岐とは、広告後粗利 = 0 となる点です。広告後粗利 = 単品粗利 − 広告費 = 販売価格 × 粗利率 − 販売価格 × ACoS。これが 0 になるのは、粗利率 = ACoS のとき。つまり、損益分岐ACoS = 粗利率。
粗利率を超えるACoSは赤字、下回れば黒字。SKUごとにこの一線がどこにあるかを知らずに、全商品を同じACoS目標で運用するのが、利益が残らない最大の原因です。
"隠れコスト"を粗利から引けているか
広告後粗利を正しく出すには、見落としやすい実費を粗利に織り込む必要があります。現場で漏れがちなのは次の3つです。
- ポイント原資:楽天・Yahoo!のポイント還元やクーポンは実質的な値引き。粗利から引かないと利益を過大評価します。
- 返品・キャンセル率:返品が出れば送料も手数料も戻りません。返品率を織り込んだ「実効粗利」で見る。
- 在庫保管料・長期保管手数料:FBAの保管料、特に売れ残りSKUの長期保管手数料は粗利をじわじわ削ります。
これらを引かずに「粗利率40%」と思い込んで広告を回すと、損益分岐ラインを実際より高く見積もり、赤字SKUを"黒字だと勘違いして"広告し続けることになります。
では、何をすればいいか
- SKU別に広告後粗利を可視化する:全社平均ではなくSKU単位で損益分岐ACoSと実ACoSを並べる。これだけで「黒字SKU」と「売るほど赤字のSKU」がはっきり分かれます。
- 赤字SKUの広告を止める/価格・原価を見直す:損益分岐ACoSを実ACoSが上回っているSKUは、広告を絞るか、価格改定・原価交渉・送料設計で粗利率そのものを引き上げる。広告運用の前に"利益の器"を直します。
- 黒字SKUに予算を寄せる:広告後粗利がプラスのSKUは、まだ伸びしろがある証拠。止めたSKUの予算をここへ移すだけで、総広告費を増やさずに利益を増やせます。
まとめ
ROASやACoSは「売上をいくら作ったか」の指標で、利益が残るかどうかは教えてくれません。判断軸を「広告後粗利(損益分岐ACoS)」に1つ足すだけで、どのSKUに広告を出すべきか・止めるべきかが、感覚ではなく数字で決まります。
赤兎馬は、公式APIと実額手数料に基づく内製の分析基盤で、SKU別の広告後粗利を月次で全可視化しながら運用しています。「売上は伸びているのに利益が残らない」——心当たりがあれば、まずはご自身の店舗で、赤字SKUがないか確かめてみてください。
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