「指名広告(自社ブランド名での検索に出す広告)は出すべきか」——この問いに、CVRの高さや『なんとなく不安だから』で答えていないでしょうか。
この記事では、出す/出さないを感覚ではなく一つの式で線引きする方法をまとめます。読み終えると、自社の指名広告が「利益を生んでいるのか、ただのムダ撃ちか」を数字で判断できるようになります。
なぜ「CVRが高い=出した方が得」は危険なのか
指名検索は、すでにブランドを知り買う気のある人の検索です。だから指名広告はクリック率もCVR(クリックが注文に至る率)も高く、レポート上の数字はきれいに見えます。
ここに落とし穴があります。その注文の多くは、広告を出さなくても自然検索(オーガニック)で自社ページが1位に出て取れていた注文です。広告はその上に重なっているだけ。広告なしでも取れた注文に広告費を払うことを「カニバリ(共食い)」と呼びます。
指名広告の損得は、広告経由の売上総額ではなく、広告が“新たに生んだ”純増分だけで測ります。これが判断のすべての出発点です。
判断式:『純増分の広告後粗利』で決める
まず用語を1行で。広告後粗利とは、売上の粗利から広告費を引いて手元に残る利益のことです。
指名広告で本当に測るべきは、純増分(広告がなければ取れなかった注文)の広告後粗利です。これがプラスなら出す、マイナスなら出すほど損になります。損益分岐は次の一行に集約できます。
純増率 > 1注文あたり広告費 ÷ 粗利単価(広告前)
この右辺を「損益分岐純増率」と呼びます。実際の純増率がこの値を上回れば出す価値があり、下回れば出すほど損、というシンプルな線引きです。
仮の計算例で線を引く
ここからは説明のための仮の計算例です(実数ではありません)。
販売価格5,000円・粗利率40%(広告前の粗利2,000円/個)の商品。指名広告のCPC(クリック単価)50円、CVR20%とすると、1注文あたり広告費=50円 ÷ 0.2 =250円。
損益分岐純増率=250円 ÷ 2,000円 =12.5%。
- 自然検索で1位を独占していて、広告を止めても注文の9割が自然に戻るなら、純増は1割(10%)。12.5%を下回るので、出すほど損。
- 競合が自社ブランド名に広告を出しており、止めると枠を奪われる。純増が3割(30%)あるなら、12.5%を上回るので、出す価値あり。
同じ商品・同じ広告でも、置かれた状況で結論は逆になります。「指名広告は出すべき/出すべきでない」と一律には言えない理由がここにあります。
純増率を左右する3つの状況
- 自然検索で1位を独占しているか:独占しているほどカニバリが大きく、純増は小さい → 出さない寄り。
- 競合が自社の指名KWに広告を出しているか(competitor conquesting):出されていると、自社が指名広告を出さない限り検索結果の上段を競合に奪われます。これは純増(防衛価値)を押し上げる → 出す寄り。ただし相手が撤退したらこちらも絞る前提の“防衛コスト”です。
- ブランド知名度・自然順位の安定性:知名度が低い/順位が不安定なほど、広告なしでは取りこぼす=純増が大きい → 出す寄り。
純増率はどう測るか(オン・オフテスト)
純増率は最初から分かるものではありません。実務では「一定期間、指名広告を止めて、自然検索の注文がどれだけ増えるか」を観測します(オン・オフテスト)。止めて9割が自然に戻れば純増は1割、半分しか戻らなければ純増は5割。完全な計測は難しくても、止める前後の比較だけで「払っている広告費が純増を生んでいるか」の当たりはつきます。
チェックリスト:指名広告を出す前に見る5項目
- 自然検索での自社順位(1位を独占しているか)
- 競合が自社指名KWに広告を出しているか(conquesting の有無)
- 1注文あたり広告費=CPC ÷ CVR
- 粗利単価(広告前)
- 損益分岐純増率(③÷④)を、実測の純増率(オン・オフテスト)が上回るか
まとめ
指名広告の是非は「感覚」でも「CVRの高さ」でもなく、純増分の広告後粗利で決まります。損益分岐純増率という一つの式に、自然順位・競合の有無・知名度を当てはめれば、出す/出さないは数字で線引きできます。
まずは自社の指名広告が純増を生んでいるか、上の5項目で確かめてみてください。店舗URLでの無料EC診断もやっています:https://ec-sekitoba.jp/#contact