原価も送料も上がっているのに、値上げに踏み切れない。理由はたいてい「どれだけ売れなくなるか分からない」ことです。
この記事では、値上げ後に「何個まで売れなくなっても総利益が減らないか」を先に計算する方法を書きます。感覚ではなく数字で線を引ければ、値上げは怖い決断ではなくなります。
値上げを止めているのは、失う販売数が見えないこと
値上げの議論はたいてい「お客様が離れるのでは」で止まります。ですが本当に知りたいのは離れるかどうかではなく、どれだけ離れたら損になるかです。この境界線は計算で出せます。
先に結論の形だけ示すと、こうなります。
> 許容できる販売数の減り幅 = 1 −(値上げ前の単品粗利 ÷ 値上げ後の単品粗利)
分母が大きくなるほど、つまり値上げ幅が大きいほど、失ってよい販売数も増えます。ここを出さずに議論するから決まらないのです。
ステップ1:値上げ前の単品粗利を実額で出す
以下はすべて説明のための仮の計算例です。実際の手数料率はカテゴリ・時期・モールで異なるため、必ず各モールの公式情報で最新の数値をご確認ください。
- 販売価格:金額 3,000円
- 商品原価:金額 −900円
- 販売手数料(10%と仮定):金額 −300円
- 送料・梱包:金額 −500円
- 単品粗利:金額 1,300円(粗利率 43.3%)
月に100個売れているとすると、この商品が生む粗利は月130,000円です。ここが基準線になります。
なお、ポイント原資やクーポンの店舗負担分がある場合は、それも必ずこの表に含めてください。ここを抜くと以降の計算がまるごとずれます。
ステップ2:値上げ後の粗利と「許容販売数減」を出す
値上げすると、販売価格に連動する販売手数料も増えます。そこまで込みで計算します。
5%値上げ(3,000円 → 3,150円)の場合
- 販売手数料:315円
- 単品粗利:3,150 − 900 − 315 − 500 = 1,435円
- 許容販売数減:1 −(1,300 ÷ 1,435)= 約9.4%
つまり月100個が90個まで落ちても、総粗利は減りません。
10%値上げ(3,000円 → 3,300円)の場合
- 販売手数料:330円
- 単品粗利:3,300 − 900 − 330 − 500 = 1,570円
- 許容販売数減:1 −(1,300 ÷ 1,570)= 約17.2%
月100個が82個まで落ちても総粗利は維持されます。
早見の形にすると、この商品ではこうなります。
- 3%:値上げ後の単品粗利 1,381円/許容できる販売数の減り幅 約5.9%
- 5%:値上げ後の単品粗利 1,435円/許容できる販売数の減り幅 約9.4%
- 10%:値上げ後の単品粗利 1,570円/許容できる販売数の減り幅 約17.2%
- 15%:値上げ後の単品粗利 1,705円/許容できる販売数の減り幅 約23.8%
ここまで出せば、議論は「値上げは怖い」から「10%上げて2割落ちなければ勝ち。2割も落ちると思うか?」という検証可能な問いに変わります。
粗利率が薄い商品ほど、この許容幅は大きく出ます。利益が残っていない商品ほど値上げの効果が大きいということで、直感とは逆です。
ステップ3:値上げは損益分岐ACoSも一緒に緩める
見落とされがちですが、値上げの効果は販売数だけの話では終わりません。
損益分岐ACoS(広告費がこの比率を超えると赤字になる線。ざっくり単品粗利率と同じ)は、先ほどの例だとこう動きます。
- 値上げ前:粗利率 43.3% → 損益分岐ACoS 43.3%
- 10%値上げ後:1,570 ÷ 3,300 = 粗利率 47.6% → 損益分岐ACoS 47.6%
広告に使ってよい上限が4ポイント以上広がります。同じキーワードで今まで competitors に競り負けていた入札を、今度は利益を残したまま踏める可能性が出てくるということです。
値上げを「販売数が減るリスク」だけで評価すると、この広告側の効果を丸ごと見落とします。値上げの判断は必ず広告後粗利、つまり広告費を引いたあとに手元に残る金額で見てください。
価格改定でやりがちな3つの失敗
1. 全SKU一律で上げる
粗利率はSKUごとに違うので、許容できる減り幅もSKUごとに違います。粗利の薄いSKUは大きく、厚いSKUは小さく。一律は必ずどこかを間違えます。
2. いきなり主力から動かす
レビューと順位が積み上がった主力SKUは、失ったときの回復コストが最も高い資産です。まずは順位への影響を観察しやすい中位のSKUで反応を見て、そこで得た数字を主力に適用する順番が安全です。
3. 値上げと同時にページを何も触らない
同じページのまま価格だけ上がると、訪問者には値上げの理由が何も伝わりません。素材・仕様・保証・同梱物など、伝えきれていない価値がページに残っていないかを、値上げ前に必ず一度点検してください。
値上げ前チェックリスト
- そのSKUの単品粗利を、ポイント原資・クーポン負担まで含めて実額で出したか
- 値上げ幅ごとの「許容販売数減」を出したか
- 値上げ後の損益分岐ACoSがどこまで緩むかを確認したか
- 全SKU一律ではなく、SKU別に判断しているか
- 価格が上がる理由が伝わるページになっているか
- 改定後、何日で何を見て判断するか(販売数・順位・カート獲得)を決めているか
値上げは一度きりの決断ではなく、数字を見ながら戻せる施策です。まず1SKUで許容ラインを出してみてください。判断の速さが変わります。
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