大型セールの案内が来るたびに、とりあえず参加していませんか。
セール参加は正義でも悪でもなく、回ごとに損益が変わる意思決定です。この記事では、値引き・クーポン・ポイント原資・広告費を積み上げて「実質原価」を出し、出るべき回と引くべき回を分ける手順を書きます。
セール時に重なるコストは、1つではなく4つ
セールの利益が読めなくなるのは、コストが同時に何層も重なるからです。分解すると4つです。
- 本体値引き:セール価格そのもの
- クーポン:値引きの上乗せ
- ポイント原資の店舗負担分:倍率施策に参加した分の負担
- 広告費の上昇:セール期間はクリック単価が上がりやすい
それぞれ単体では「まあこのくらいなら」と思える幅でも、4つ重なると単品粗利を簡単に食い切ります。足し算をせずに参加するのが一番危険です。
実質原価シートを1枚作る
以下はすべて説明のための仮の計算例です。ポイント原資の負担割合や料率は施策・時期で変わるため、参加前に必ず各モールの公式の案内でご確認ください。
通常時
- 販売価格:金額 4,000円
- 商品原価:金額 −1,200円
- 販売手数料(10%と仮定):金額 −400円
- 送料・梱包:金額 −600円
- 単品粗利:金額 1,800円(粗利率 45.0%)
セール時(10%OFF+500円クーポン+ポイント原資の店舗負担5%)
- セール価格(10%OFF):金額 3,600円
- クーポン:金額 −500円 → 実売 3,100円
- 商品原価:金額 −1,200円
- 販売手数料(実売の10%):金額 −310円
- 送料・梱包:金額 −600円
- ポイント原資の店舗負担(実売の5%と仮定):金額 −155円
- 単品粗利:金額 835円(粗利率 26.9%)
粗利が 1,800円 → 835円、率にして45.0% → 26.9%。1個あたり965円が消えました。
さらにここへ広告費が乗ります。通常時のACoSが20%だったとして、セール時にCPCが1.3倍になり実質26%相当まで上がったとすると、実売3,100円に対する広告費は約806円。
広告後粗利:835 − 806 = 29円
粗利がほぼ蒸発しています。「セールで過去最高の売上だったのに、月末の利益が思ったより残らない」の正体はここです。
判定:この計算がマイナスなら、参加は「投資」になる
実質原価を出した結果、広告後粗利がプラスなら参加判断は単純です。問題はマイナスのときです。
マイナスでも参加すべき場面は、確かにあります。
- 新規顧客の獲得:セールは普段リーチできない層が動く数少ない機会
- レビューの初速づくり:レビュー0件の商品を動かす起点として
- ランキング入賞による、その後の自然流入
ただし、これらを理由に赤字で出る場合は条件が1つあります。赤字許容額を先に決めることです。
「今回は新規獲得のために、この商品で最大10万円までの赤字を許容する。それを超えたら在庫を絞る」。ここまで決めてから参加するなら、それは投資です。決めずに参加して後から「まあ新規が取れたし」と後付けで納得するのは、投資ではなく事故の追認です。
出る/引くの判断テーブル
- 実質原価計算後の広告後粗利がプラス:判断 出る。在庫の許す限り
- マイナス、かつレビュー0〜数件の商品:判断 赤字許容額を決めて出る(初速づくりの投資)
- マイナス、かつ既にレビューも順位もある主力:判断 引く。値引きしなくても売れる商品を安く売る理由がない
- マイナス、かつ在庫が薄い:判断 引く。欠品リスクを負ってまで安く売る場面ではない
- 計算していない:判断 参加前に計算する。ここが一番多い
一番もったいないのは、主力商品を全力でセールに出してしまうパターンです。指名で買われる商品、レビューが積み上がっている商品は、値引きしなくても売れます。そこに値引きとポイント原資を重ねると、本来もらえていた利益をわざわざ削っていることになります。
セール参加前チェックリスト
- 値引き・クーポン・ポイント原資・広告費上昇の4つを1枚に積み上げたか
- セール時の単品粗利と広告後粗利を実額で出したか
- マイナスの回について、赤字許容額を事前に決めたか
- 主力商品を無条件でセール対象にしていないか
- 在庫がセール期間の想定販売数に耐えるか
- 終了後に、実際の広告後粗利で答え合わせをする予定を入れたか
自社だけでやり切るのが難しい場合
ここまでの計算は、必要な数字さえ揃えば電卓でできます。難しいのは計算そのものではなく、セール前の忙しい時期に、SKU別の実額手数料とポイント原資を毎回そろえることです。ここが揃わないから、多くの店舗が「とりあえず参加」に戻ってしまいます。
もし自社で数字をそろえるところで止まっているなら、まず現状を可視化するところからでも構いません。店舗URLをいただければ、公開情報の範囲で改善余地をレポートにしてお返ししています。
無料EC診断:https://ec-sekitoba.jp/#contact
セールは出るか出ないかではなく、いくらの投資として出るかの話です。次の回の前に、1SKUだけでも実質原価を出してみてください。