「広告を強めれば、自然検索の順位も上がるはず」。EC の現場でよく出るわりに、検証されないまま残りがちな仮説です。
自社の Amazon 店舗(知育ポスター)で、この仮説を確かめる実験を 2026 年 9 月 9 日〜10 日に設計し、9 月 14 日から 11 月 8 日までの 8 週で回しています。結果はまだ出ていません。それでも設計だけを先に公開するのは、この種の実験で本当に効くのが「判定の基準と撤退線を、始める前に決めておくこと」だからです。
この記事で分かること。
- 8 週を 3 フェーズに切る理由(押す/絞る/判定)
- 始める前に固定した 5 つの数字
- 測り始める前に自分で踏んだ、データ側の落とし穴 2 つ
「押したら上がった」では何も分からない:8 週を 3 フェーズに切る
広告の入札と予算を上げている最中に順位が動いても、それは「広告を出している状態の順位」でしかありません。知りたいのは、押すのをやめた後に順位が残るかどうかです。だから 8 週をこう切りました。
- 1〜4 週目:押す(対象広告の入札と日予算を上げる)
- 5〜6 週目:絞る(入札と予算を下げる)
- 7〜8 週目:判定(絞った状態で順位が保てるかを見る)
肝は 5〜6 週目です。ここで順位が元の位置まで落ちるなら、それは「買っていた順位」であって、広告を止めれば消えます。逆に絞った後も残るなら、広告が初速をつけた分が売上や回転に転化した可能性が出てきます。可能性、です。1 回の実験で因果を断定することはできません。
始める前に固定した 5 つの数字
実験がうまくいかない原因としてよくあるのが、「終わった後に基準を決めようとする」ことです。数字が動いた後に基準を作ると、都合のいい解釈が混ざりやすくなります。そこで開始前に次を固定しました。
- 目標順位:主要キーワードで 10 位以内(1 ページ目)
- 上限 ACoS:35%(超えたらフラグを立てて人が判断する)
- 週コスト上限:3 万円(同じくフラグ)
- 追跡キーワード:5 語
- 期間:8 週(フェーズは 4 週:2 週:2 週)
ACoS は「広告経由の売上に対する広告費の比率」です。ここで大事なのは、35% という数字がそのまま他店には使えないこと。損益分岐 ACoS は商品の粗利率で決まり、粗利率 40% の商品なら損益分岐 ACoS は概ね 40%、粗利率 25% なら 25% になります(説明のための仮の計算例)。35% は自社の設定値です。損益分岐 ACoS は商品の粗利率で変わるので、読者の商品ではまず自分の粗利率を出すところから始めてください。
追跡する語は 5 つだけ:「あと少しで 1 ページ目」を狙う
追跡キーワードは固定 3 語+変動 2 語にしました。
- 固定 3 語:商品の主要語(実験期間中は入れ替えない)
- 変動 2 語:直近 7 日の平均順位が 11〜40 位の語のうち、検索ボリューム上位 2 語
11〜40 位を選ぶ理由は単純です。100 位圏外の語を広告だけで 10 位に押し上げるのは無理筋で、すでに 10 位以内の語は伸び幅が測れない。「あと少しで 1 ページ目」の帯域だけが、8 週というスパンで動きが見える場所です。
週ごとに測るのは 4 つ。
- 順位(週平均と最終日の 2 本。最終日だけだと日次の揺れを拾う)
- 前週比と実験開始時比
- 対象広告の週コストと ACoS
- 自然検索由来の売上比率(正確には出せないので代替値で追う)
開始時点の主要語の順位は 20〜39 位台でした(数値は説明のため丸めています)。同時に競合の上位 10 件も確認したところ、上位はすべて自然検索枠で、自社は圏外。つまり「広告枠で上に出ているだけの状態」ですらなく、自然検索でまだ勝負の土俵に乗っていない状態だと分かりました。
測る前に踏んだ落とし穴 2 つ
実験を組んだ後、測定の土台に穴が 2 つ空いていました。どちらも気づかなければ、8 週後に何も判定できなかった類のものです。
- 順位の元データが増えていなかった:初回に一括で埋めたところで止まっており、毎週の追加が走っていなかった。週次で自動更新するよう直しました。
- 週の始まりがずれていた:実験の基準週を火曜始まりで登録していたのに、週次レポート側は月曜始まり。結果、実験がいつまでも「未登録」扱いになっていました。基準週を付け替え、基準順位を再計算しました。
教訓は「実験の設計より先に、測定の土台が毎週動いているかを確認する」こと。8 週待ってからデータが無いと気づくのが、いちばん高い授業料になります。
判定は if-then で書く:着地は広告後粗利
8 週後の判定の考え方を if-then で書くと、次のようになります。
- 目標順位に届き、上限 ACoS 内で、絞った後も維持 → 継続。他キーワード・他 SKU への横展開を検討する
- 目標順位に届いたが、上限 ACoS または週コスト上限を超えた → 中止。順位は上がったが、利益で買えていない
- 目標順位に届き、絞った後に元の位置まで落ちた → 中止。押し続ける前提の順位は持続しない
- 4 週目時点で開始時比の改善が見えない → 期間短縮を検討。無駄打ちを 8 週続けない
見るのは「順位」「上限 ACoS」「絞った後の維持」の 3 点です。順位だけを成果指標にすると、上限を超えた広告費で買った順位を「成功」と呼ぶことになります。手元に残るのは順位ではなく広告後粗利、つまり広告費を引いた後の利益です。
人が最後まで持つ部分も決めました。実験の承認、入札の実変更(人が操作して記録を更新する)、そして 8 週後の判定。数値の収集と集計は自動化できますが、「この ACoS を許容するか」は商品の粗利と在庫状況を知っている人間の判断です。
まとめとして、始める前に埋めるチェックリストを置いておきます。
- 対象キーワードは何語か(固定と変動を分けたか)
- 目標順位はいくつか
- 上限 ACoS を自社の粗利率から逆算したか
- 週コストの上限はいくらか
- フェーズ(押す/絞る/判定)の週を決めたか
- 判定週はいつで、誰が判定するか
- 順位データは毎週自動で増えているか
- 週の始まり(月曜か火曜か)がレポートと揃っているか
- 撤退線(何が起きたら途中でやめるか)を書いたか
この 9 項目が埋まっていない実験は、8 週使っても「なんとなく上がった気がする」で終わります。逆にここが埋まっていれば、結果がどちらに出ても次の一手が決まります。
広告費を増やすべきか迷っている段階なら、その前に現状を数字で見たほうが早いことが多いです。赤兎馬では、店舗 URL をいただければ広告後粗利の観点で改善余地をレポートにしてお返しする無料 EC 診断をやっています。判断材料として使ってください。
https://ec-sekitoba.jp/#contact