「広告にいくらまで使っていいのか」。この問いに1回の購入だけで答えるか、その後のリピートまで含めて答えるかで、広告の踏み込み方は大きく変わります。この記事では、リピート率から簡易LTVを出し、新規獲得にかけられる広告費(許容CPA)を逆算する手順を、仮の計算例つきで整理します。
損益分岐ACoSは「1回で黒字」が前提の数字
まず用語をそろえます。ACoSは売上に対する広告費の割合、損益分岐ACoSは「これを超えると赤字になる」境界線で、実は単品の粗利率と同じ数字です。粗利率30%の商品なら、広告費が売上の30%を超えた時点で、その注文は赤字になります。
ただしこれは「1回の購入で黒字にする」前提の話です。買った人が二度と戻らない商材なら、この前提が正解です。一方、定期的に買い直される商材——サプリ、食品、消耗雑貨など——では、初回の赤字を後の購入で回収する設計がありえます。その判断を感覚ではなく計算でやるのが、この記事の主題です。
簡易LTVの出し方(仮の計算例)
LTV(顧客生涯価値)というと難しく聞こえますが、最初は簡易版で十分です。必要な数字は3つだけ。初回購入の粗利、リピート率、リピーターの平均購入回数です。
説明のための仮の計算例です。販売価格3,000円・粗利率30%で、1回の購入で残る粗利が900円の商品を考えます。過去12ヶ月の注文データを見ると、初回購入者のうち30%が再購入しており、再購入する人は平均3回買い足していたとします。このとき1人の顧客がもたらす粗利の期待値は、
初回900円 +(リピート率30% × 平均3回 × 900円)= 約1,710円
になります。ポイントは、リピート率も回数も自店の注文データの実測値を使うことです。同一顧客の再購入割合は、注文レポートを購入者単位で集計すれば手元のデータで出せます。
許容CPAをLTVで引き直すと何が変わるか
1回基準なら、この商品に使える広告費は1件あたり最大900円(損益分岐ACoS=30%)です。LTV基準なら上限は約1,710円まで広がり、初回だけ見れば最大810円の赤字を許容できる計算になります。競合がこの水準で入札していると、1回基準の店は新規獲得の入札で構造的に勝てません。
ただし2つ、必ずセットで決めることがあります。
第一に、回収までの時間。810円の赤字は、リピートが積み上がる数ヶ月後にようやく回収されます。資金繰りに余裕がないなら、「3ヶ月以内に回収できる範囲まで」のように、許容赤字に期間の上限を付けてください。
第二に、上限額の固定。「LTVがあるから」と入札を青天井にするのが一番危険です。許容CPAは計算で先に決め、運用中に情で動かさないことです。
消耗品と耐久品で、答えは全く違う
この設計が成立するのは、リピートが実際に立つ商材だけです。家具やポスターのような耐久品は、商品が良いほど買い直しが起きません。リピート率が一桁%なら、LTVを持ち出しても上限はほとんど動かず、実務上は「初回黒字必須=損益分岐ACoS厳守」が答えになります。
つまり同じ広告予算の会議でも、消耗品のSKUと耐久品のSKUでは適用するルールが違う、ということです。SKUごとに広告後粗利(広告費まで引いて残る利益)を分けて見る運用と、ここで接続します。
やりがちな失敗:見込みリピートで赤字を正当化する
最後に歯止めの話です。この設計の最大の事故は、リピート率を楽観で盛ることです。「良い商品だからリピートは付くはず」で初回赤字を正当化すると、回収されない赤字が静かに積み上がります。
ルールはひとつ。実測リピート率以外は使わない。発売直後でデータがない商品は、まず初回黒字ルールで運用し、12ヶ月分の実測が貯まってから上限を緩める。この順番を守るだけで、LTV運用は堅実な武器になります。
判断基準まとめ(if-then)
- リピート率を実測できていない → 初回黒字必須(損益分岐ACoS厳守)
- 実測リピート率が低い(目安:10%未満) → LTVで上限はほぼ動かない。1回基準のまま
- 実測リピート率が高い → 許容CPA=LTV粗利で再計算。ただし許容赤字の上限額と回収期限を先に決める
- 資金繰りがタイト → 回収期間の条件を最優先する
数値はすべて説明のための仮の計算例です。自店の実測値に置き換えて計算してみてください。店舗URLだけでできる無料EC診断もやっています:https://ec-sekitoba.jp/#contact